目黒区 都立大学駅前 すみクリニック 皮膚科・アレルギー科
保険診療
多汗症/イオントフォレーシスなど様々な治療法
多汗症とは
多汗症とは、腋、手掌(手のひら)、足の裏、頭部などに異常に多く発汗する病気です。こうした多汗症は腋臭症(わきが)とは全く違う病気であり、治療法も異なります。また、全身にたくさんの汗をかく「汗かき体質」とも異なりますし、多汗症は「身体異常の疾患」であり「精神異常」が原因ではありませんので、緊張や不安などのストレスから一時的に交感神経が狂って多汗症になることもありません。多汗症のうち、日常生活を送るのに困ってしまうほど発汗するのを、特に医学的に「手掌多汗症(しゅしょうたかんしょう)」と呼び、本人が日常生活に困っていたり、症状がひどかったりすると、治療の対象になります。
手掌多汗症は一生続くものですが、この病気の方が治療を受け始めるのは10歳~40歳ぐらいの方が多いようです。ところが、本人には意識できない幼少期から発症している場合もあり、ご両親は注意して観察してあげて下さい。ただしこの病気には男女差はありません。
実際に手掌多汗症で悩まれている方の悩みは、そうでない人からは想像できないほど深いものです。非常に症状が重い場合、手から汗が滴るように出るため、「手を動かすと汗が飛び散る」「教科書やノートが濡れて破れてしまう」「人と握手ができない」「手が滑って物を落としやすい」など、日常生活をおくる上で実に様々な支障が生じます。
手掌多汗症の患者様は、一応は親や周囲の人に相談するのですが、「ただの汗っかき体質」ということで片付けられてしまい治療を受けることなく悩みながら成長していくこともあります。そのために、性格が消極的になったり、恋人を作れなくなってしまったり、学業の面でも集中力が低下してしまったりなど深刻な問題をかかえることもあり、その結果、学業成績の低下やいじめの原因となり、不登校や引きこもりになってしまわれる方もいます。
多汗症の方の汗の出る量は、時間帯や気温、緊張の度合いによって違いがありますが、目安のために次の3段階に分類しています。
多汗症の原因は?
多汗症の原因はまだはっきりとはわかっていません。
交感神経の機能が高まった状態が続くと、エクリン腺という汗を分泌するところが活性化されて、多量の汗が分泌されますので、交感神経の機能異常であるという説が有力です。ただ、精神的刺激や緊張がそれほど強くなくても発汗するのもこの病気の特徴ですので、一概に交感神経だけの問題でもないようです。
ちなみに、多汗症の方は睡眠中の発汗量は少ないようです。
多汗症の診断
多汗症の診断は以下の基準によって行われます。
①発症が25歳以下である
②左右対称性に発汗がみられる
③睡眠中は発汗が止まっている
④週1回以上の多汗のエピソードがある
⑤家族歴がみられる
⑥それらによって日常生活に支障をきたす
局所的に過剰な発汗が明らかな原因がないまま6ヶ月以上認められ、上記2項目以上があてはまる場合を多汗症と診断する
上記の多汗症は原発性多汗症とよばれますが、続発性多汗症という疾患もあります。
~ 続発性多汗症の原因 ~
①全身性のもの
薬剤性、薬物乱用、循環器疾患、呼吸不全、感染症、悪性腫瘍、内分泌・代謝疾患(甲状腺機能亢進症、低血糖、褐色細胞腫、 末端肥大症、カルチノイド腫瘍)、神経学的疾患(パーキンソン病)
②局所性のもの
脳梗塞,末梢神経障害,中枢または末梢神経障害による無汗からおこる他部位での代償性発汗(脳梗塞,脊椎損傷,神経障害, Ross syndrome)、Frey症候群、味覚性発汗、エクリン母斑、不安障害、片側性局所性多汗(例:神経障害、腫瘍)
多汗症の治療について
それぞれの治療法に長所短所があり、一概にこれが一番良いとは言えませんが、順番に治療を試していくことになります。
(日本皮膚科学会原発性局所多汗症診療ガイドライン2023年改訂版より引用)
治療する上で最初に取り組んでいただく局所制汗剤は、当院では20%アルミニウム溶液、50%アルミニウム溶液、30%アルミニウム軟膏を用意しています。
液体の制汗剤は化粧水のように外用するだけで効果を発揮する方もおられますが、綿手袋に液体を染ませた後にゴム手袋をする密封療法をしなければならないこともあり、これは大変QOL(生活の質)を低下させる原因にもなりますので、そういった場合には軟膏の制汗剤を使用していただいています。
また、外用抗コリン薬は、腋窩用として、2020年11月よりエクロック®ゲル(ソフピロニウム臭化物)、2022年5月よりラピフォート®ワイプ(グリコピロニウムトシル酸塩水和物)、手掌用として、2023年6月よりアポハイド®ローション(オキシブチニン塩酸塩)が発売されており、目に入らないよう注意が必要であったり、年齢制限があったりするものの、使用しやすくご好評をいただいています。
手掌、足底の多汗症で行われる頻度の高い水道水イオントフォレーシスは当院でも行っております。
繰り返しの治療が必要になる場合が多いものの、全身麻酔が必要な手術ではないので、欧米では一般的な治療法として利用されており通院しながら手軽にできる治療法といえます。手のひらや足の裏などに微弱な電流を流して汗管に作用させる治療法なので、ペースメーカーなどをつけておられる方には施行できません。少なくとも週に1回程度の通院が必要になりますが、効果がある場合にはだいたい12回目施行後頃にはかなり満足できる程度にまで改善がみられ、大抵の場合では20回程度の治療で一旦終了となります。ただし、重症な多汗症の場合は、中止後発してイオントフォレーシスを再開しなければならないこともあります。
なお、全ての多汗症にイオントフォレーシスを行ってはいけないとされており(社会保険診療報酬支払基金東京支部の見解)、どのような治療方針にするかは受診していただいた上で決めていきたいと考えております。
内服抗コリン薬としては、プロ・バンサイン®(プロパンテリン臭化物)やグランダキシン®(トフィソパム)等が投与されたり、症状により漢方薬を投与することもあります。
一方で、交感神経を切り取ったり焼いたりして神経の働きを止める手術法もあり、非常に効果的な治療法といえますが、残念なことに欠点もあります。胸部交感神経遮断手術は、入院して全身麻酔を必要とし、大がかりな開胸手術である上、大きな傷も残ります。また、内視鏡外科手術(ETS手術)は内視鏡を腋から入れて背骨近くにある神経を切断する手術で、日帰りでの手術を行う施設も増えてはきましたが、傷は小さくなるとはいえ開胸手術と同じく全身麻酔が必要ですし、左右両方の手術が必要になります。また、手術前のように汗が出なくなってしまうので、体温調節が難しくなり首や手が非常に暑く感じるようになったり、代償性発汗といって手術後に胸や腹回り、大腿部にかえって多く汗をかくようになったりする合併症もあります。
☆注意事項
当院では大変多くの方が多汗症の治療で通院されていますが、施術する器械の数に限りがありますので、イオントフォレーシスでの治療は予約制とさせていただいています。
なお、初めて受診される方は、紹介状をお持ちの場合を除きご予約を承っておりません。
イオントフォレーシス療法を行う場合は、診察後、イオントフォレーシス療法の適応を判断した上でご予約を取らせていただきますことをご了承下さい。
(当院では今のところボトックス®(ボツリヌス毒素製剤)を用いた治療は行っておりません)