目黒区 都立大学駅前 すみクリニック 皮膚科・アレルギー科
保険診療
蕁麻疹(じんましん)
蕁麻疹は一生のうちに約20%もの人が一度は経験するという非常にありふれた疾患です。20~40歳代に多く、また男性よりも女性に多いとされています。ただ、皮膚に出た赤い発疹を全て「蕁麻疹」とおっしゃる方がいますが、そうではなく、医学的には皮膚に出た発疹のうちある特定のものを「蕁麻疹」といいます。また、発疹が出ると、肝臓が悪いのでは?何のアレルギー?体質改善は?という話にもなりがちです。もちろんアレルギー反応だったり、本当に肝臓が悪かったりすることもありますが、必ずしもそればかりが原因ということはありません。
蕁麻疹と一言にいっても、非常に多彩です。
発症するメカニズム、原因や誘因は大変多岐にわたります。しかし、診断すること自体は皮膚科専門医にとってそれほど困難なものではないものの、病気のメカニズム、原因や誘因をはっきりさせることは非常に難しいことがあります。
蕁麻疹とは?
蕁麻疹は基本的に急速に出現する皮膚の中のむくみ(浮腫)です。皮膚にある細胞からヒスタミンという化学物質が放出されることで、皮膚の血管が開いて赤く見え、血液の中の血漿成分を血管の外に漏れ出させて皮膚のむくみを作ります。このむくみを「膨疹(ぼうしん)」といいますが、赤みや痒みだけでなく、場合によっては熱さや痛さを感じることもあります。この膨疹が次々とあらわれますが、膨疹1つ自体は24時間以内に消えて正常な皮膚に戻ります。 蕁麻疹の中には「膨疹」よりも皮膚の深いところから出現するものもあり、これを「血管性浮腫(けっかんせいふしゅ)」といって区別します。血管性浮腫の場合は、粘膜に出現することもあり、72時間位発疹が持続することもあります。また、痒みよりも痛みを訴えられることが多いことも知られています。 そうはいっても、蕁麻疹という病気は非常に複雑で日本皮膚科学会によるガイドラインでも3群13病型に分類されており、皮膚科専門医ではそれぞれの病気の状態に合わせた治療を行っております。 |
![]() 塩野義製薬(株)提供資料より |
よく受診される蕁麻疹の種類
1)特発性蕁麻疹(急性蕁麻疹、慢性蕁麻疹)
医療機関を受診される蕁麻疹の中で、最も多いのが特発性の蕁麻疹(急性蕁麻疹、慢性蕁麻疹)です。蕁麻疹と診断されるもののうち約73%を占めます。
特に心当たりのある原因があるわけではないのに自発的に出現することが特徴といえます。発疹の形は大小様々で、毎日のように発疹が出たり消えたりします。比較的、夕方~夜に症状が出現することが多いようです。疲労が蓄積したり、ストレスフルな毎日であったり、細菌やウィルスが感染することで症状の悪化があります。ただし、ほとんどの場合、内服している薬剤や食べ物、内臓の病気と関係していることはありません。
適切な治療で多くは1ヶ月以内に治り、急性蕁麻疹といいますが、発症後1ヶ月以上続くものは長引くことも多く、慢性蕁麻疹といいます。
2)食物、薬剤、環境物質、感染性微生物による蕁麻疹、物理性蕁麻疹
3)コリン性蕁麻疹
4)食物依存性運動誘発アナフィラキシーによる蕁麻疹
特定の食べ物や、薬を飲む、皮膚の摩擦や圧迫、皮膚に寒冷の温度差を加える、などといった刺激によって起きる蕁麻疹や、運動や入浴など汗をかくことによって出現する蕁麻疹のことです。
いずれも刺激が加わってから数分~数時間のうちに症状が出現し、ほとんどのものは長くとも数時間のうちに症状がおさまってしまいます。 ただし、食物依存性運動誘発性アナフィラキシーのように特定の食物を摂取したあと数時間以内に運動すると蕁麻疹だけでなく、呼吸困難もあらわれてショック状態になって意識を失い生命の危険にさらされるものもあり、注意が必要です。 |
![]() 塩野義製薬(株)提供資料より |
5)血管性浮腫
特殊な型の蕁麻疹のうち比較的多いものが血管性浮腫です。
必ずしも痒みをともなうわけではありません。かえって痛みを感じることもあるようです。口唇や眼瞼が赤く腫れ、一度出現すると数日続くことが特徴です。
まれに遺伝が原因であることもあり、その場合はのども腫れて窒息して死に至ることもあり、正しい診断と発作時の適切な対処が大切です。
蕁麻疹に対する検査
皮膚科専門医であれば蕁麻疹の診断は、実際に皮膚に現れた症状を見たり、症状が現れたときの様子を詳しく聞かせていただいたり写真に撮ったものを見せていただいたりすることで、たいていは可能です。
日常の診療でも「蕁麻疹=アレルギー」ということで、アレルギー検査を希望される方も多いことは事実ですが、全ての蕁麻疹について検査が必要ということはありませんし、検査を行うには検査項目を絞り込まねばならず、実際に「アレルギー検査」という検査項目があるわけでもありません。
蕁麻疹に対する検査の目的は、診断を確定したり、原因を検索したりすることにあるのですが、何よりも一番重要なことは、発疹の形を見きわめ、詳細にお話を聞かせていただくことといえます。
そうはいっても、もちろん検査を行うことはあります。原因や悪化させる因子として疑われるものを皮膚にごく浅く刺して反応をみたり、場合によっては原因と思われる物質に限定した特異的IgE RASTという検査を採血して検査します。また、薬物が原因として疑われる場合や、食物依存性運動誘発アナフィラキシーの場合では、検査することで非常に強い反応を引き起こす可能性があるので、入院して負荷検査を行うこともあります。
蕁麻疹の治療
蕁麻疹による発疹自体は一過性のものですが、患者さん自身のつらさは非常に大きなものがあります。集中力を欠いたり、焦燥感を感じたり、精神的ストレスは生活の質(QOL)を大きく損ねます。また、蕁麻疹の種類によっては生命に関わることもありますので、是非とも適切な治療が必要不可欠です。
蕁麻疹の治療法としては基本的に大きく2つに分けることができます。一つは原因・悪化因子の除去と回避であり、もう一つは抗ヒスタミン薬を中心とした内服による薬物療法です。中でも、慢性蕁麻疹に対しては繰り返し出現する症状を出さないようにするために抗ヒスタミン薬による治療が推奨されています。
薬物療法はあくまでも内服で行いますので、蕁麻疹に対しては塗り薬(外用薬)では効果がありません。
①原因・悪化因子の除去
最も重要な治療法といえます。
診察して原因・悪化因子を推定し、それを除去します。例えば、飲酒、アスピリン、鎮痛薬、添加物としての色素、温熱、物理的な刺激(服の刺激や重い荷物を持つことによる圧迫も含む)、ストレスなどがあげられます。
日々の忙しい毎日の中でなかなか除去できないこともあるとは思いますが、一緒にその方法を模索していけるようお手伝いしたいと考えております。
塩野義製薬(株)提供資料より
①薬物療法
実際の診療現場では、特に慢性蕁麻疹の原因を特定するのが難しいことが多くあります。そこで現実には抗ヒスタミン薬を中心とした薬物療法を主体とする治療が広く行われています。
よほど激しい急性蕁麻疹でアナフィラキシー反応を起こし、生命の危険が予想されるときには、アドレナリンやステロイド(副腎皮質ホルモン)を注射することもありますが、あくまでも安易なステロイド(副腎皮質ホルモン)の内服による投与は行わないことが鉄則です。とりあえず投与して今だけをうまく切り抜けるといった近視眼的な治療は行わないようにしなければなりません。
1)抗ヒスタミン薬
多くの蕁麻疹はヒスタミンによって症状が出現します。しかもその反応はヒスタミン1(H1)受容体というものを介した反応であるといわれており、治療にはH1受容体拮抗薬という範疇に入る薬剤が使われることが最も多くなります。
![]() グラクソ・スミスクライン(株)提供資料より 医療機関で処方する薬剤のうち、代表的なものの一覧を図に示しております。抗ヒスタミン薬は大きく第一世代のものと第二世代のものに分けることが出来ます。 第一世代のものは、医師の処方をうけることなく薬局でお買い求めいただくことができるものと成分が同じであることが多くあります。ただし、強い眠気を催したり、口が渇いたり、などといった副作用が出ることが多いのが欠点でもあります。また、前立腺肥大症や緑内障を悪化させることもあるので、内服には注意が必要です。 |
![]() MSD(株)提供資料より |
そこで第一世代抗ヒスタミン薬で多く見られる副作用をできるだけ軽減して開発されているのが第二世代抗ヒスタミン薬です。
実はこれだけ多くの種類の第二世代抗ヒスタミン薬があるのは、それぞれの方に合う合わないが大きいためでもあります。実際に投与してみないことにはその効果が分からないことも多く、後述の他の薬剤と組み合わせたり、投与量を個人個人によって調整したりと工夫することが大変重要になってきます。
ご自分に合う抗ヒスタミン薬を見つけることができたならば、その薬を飲み続けることが非常に重要です。きちんと内服療法を続けていくことで徐々に症状が治まり、やがて治る日がやってきますので、根気よく治療を続けられることを望みます。
なお、健康保険での診療のルール上、第二世代抗ヒスタミン薬は1種類しか投与することが許されておりませんので、治療に難渋することがなきにしもあらずということをご理解いただきますようお願い申し上げます。
2)その他の薬剤
抗ヒスタミン薬は全ての蕁麻疹の治療の基本となる薬剤です。色々な種類の抗ヒスタミン薬を試してみたり、さらに投与量を増やしてみたりして、症状を抑えることができればいいのですが、中にはどうしてもそれだけではうまく治療できないこともあります。
そうした場合に使われるのが、補助的治療薬とよばれる薬剤で、これを併用することで治療効果を得られることがあります。 ロイコトリエン受容体拮抗薬やCOX-2高選択的阻害薬などがそうした種類の薬剤です。 アステラス製薬(株)提供資料より |
![]() MSD(株)提供資料より |
こうした薬剤をうまく組み合わせることで、良好な治療結果を得ることができるとされており、当院でもそうした患者様が多数来院されております。
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残念ながら、多く来院される患者様の中には、抗ヒスタミン薬、ロイコトリエン受容体拮抗薬、COX-2高選択的阻害薬など種々の薬剤を用いても効果がでないこともあります。
そうした蕁麻疹の中で、病態によっては副腎皮質ホルモン(ステロイド)の内服や点滴を行ったり、シクロスポリンと呼ばれる免疫抑制剤を投与したり、さらには免疫グロブリンの注射や血漿交換療法などが試みられることもありますが、ここまで治療をしなければならないようなことは稀です。
この他の治療法としては、治療効果についてはまだ一定の評価は得られていないものの、心理療法や光線療法、一部の漢方薬などが試されることもあるようです。
治療の展望(予後について)
それほどの効果もあがっていないのに、ただただストレスや疲労を理由にして薬だけを漫然と投与し続けることは、医療する側にとっては厳に慎まなければならないことですが、そうはいっても蕁麻疹の治療にはどうしても長期にわたる時間が必要です。
蕁麻疹の中で特に今後いつまで治療が続くのだろう?と問題になるのは、「慢性蕁麻疹」です。早い方では3ヶ月程度で軽快することもあるのですが、過去の論文などの報告によると5年で約90%の方が軽快するといわれます。
根気強く治療を続けられることをおすすめします。
日常生活において気をつけること
上に述べてきたように、蕁麻疹はなかなか原因が明らかにならない割に、様々な因子が影響して症状が現れたり悪化したりするものです。
一般的な日常生活では、過労やストレスをためこまないこと、細菌やウィルスなどの感染をおこさないように規則正しい生活と充分な睡眠、休養を心がけ、食生活においてもバランスの取れたものをとるように注意されることが大切です。
特定の食物などに原因がある場合以外は、一般に食物制限をする必要はありませんし、また逆に蕁麻疹に良いとされる食物があるわけでもありません。
ただ注意しなければならないのは、一部の食品添加物や食物の中にはヒスタミンや仮性アレルゲンを含んでいることがありますので、治療中はそれらの摂取には注意を払う必要があります。
また、治療によって一旦症状が出なくなったとしても、特に抗ヒスタミン薬についてはすぐに内服するのを止めないでください。今までの研究により、症状が治まってもしばらくは続けて内服した方が良い結果になることがわかっています。いつまで内服を続けるのか、その量はどうするのか、など、内服の方法ついては、受診の際にご相談されるようお願いします。
塩野義製薬(株)提供資料より